INTERVIEW

2度目のファースト・アルバム [タングステン流 シンセ・ポップ]

----新作「wolfram musik」は、これまでのタングステン・ヒューズのアルバムと比べると、凄くポップで聴きやすいと思うのですが、何故こういった作風になったのですか?


藤原 マンネリを突き破ろうと…録音機材を一新して温かみのある音を作ろうとしました。

 

西垣 隠されていた藤原君のポップさが全面に出た感じ。でもそれは、いわゆるポップスではなくて、あくまで「タングステンにしてはポップ」というか、「影のあるポップ」というか、そんな感じ。

 

藤原 歌詞に関しても、前を向いて前進していくような内容を期待しました

 

西垣 そうだったんだ。いま初めて聞いた。でも偶然だけど、自分も同じような事を考えて歌詞を書いていました。病んだ現実を直視して、少しずつでも前に進もうとする感じ。

 

藤原 結果的には良かったね。

 

----何か心境の変化があったのですか?


藤原 新しい機材を探しているとき、YouTubeにアップされているアマチュア・ミュージシャンの音源を聴き漁っていて、それに刺激されたのかも。今回のアルバムはシンセ中心で、殆どギターには触ってない。


西垣 そういえば「耳鳴り」に入ってたギターソロも、制作の途中で消しちゃったよね。

 

----温かみのある音というのは、具体的にはどういう事でしょうか?シンセの電子音というと、冷たい感じを想像する人もいると思いますが。アナログ・シンセの持つレトロな雰囲気のことなんかを指しているのでしょうか?

 

藤原 そうそう。「musik」のイントロ・メロディーみたいなロービット・サウンド。演奏面に関して言えば、全てを打ち込みでシーケンスを走らせるのではなく、手弾きでアナログ録音してみたり。去年(2012年)の1月からアルバムを作り始めて、最初は月に1曲のペースで作っていこうと思ってたんだけど、どんどん曲が出来てしまって。

 

西垣 怒濤のように、新曲のトラックが送られてきて。素直に、どれもカッコイイと思ったし、今作は、藤原君の勢いに引っ張って貰って完成した感じかも。特に「musik」とか「occupied tokyo」のトラックを初めて聴いたときは、その鋭い雰囲気に戦慄を憶えました。どんどんイメージが広がって、あっという間に歌詞も書けて。あんなに短い期間で、たくさんの曲が出来たのは、2003年の活動1年目以来かも。

 

----何故、そんなにも速いペースで曲が出来たのでしょう?

 

藤原 去年(2012年)の1月に、西垣君がブログに「今年はアルバムを作りたい」って書いていて、その言葉に触発されて「作るしかない」と。

 

西垣 そんな事、書いたっけ?

 

藤原 書いてたよ!ほら!(スマートフォンで問題のブログ記事を見せる)

 

----2010年に前作「obscure writer」を出した後、迷いなく「次はシンセ主体で行こう」と決まったのですか?

 

西垣 そうでもないです。「obscure writer」に「dislocation dance」という曲があって。僕は当時、あの曲のようなインダストリアルな方向に進んだら面白いんじゃないかと思っていて。メタル・パーカッションとか。実験的な、リズム・パートを声で表現するケチャみたいな事とかやってみたいなと。

 

藤原 言ってたね

 

西垣 ちょっとPortisheadの「Third」みたいな雰囲気を想像していて。

 

藤原 実際に、その路線で2曲作ってみたけど、行き詰まって暗くなってしまったね。

 

西垣 歌詞もボーカルも、かなり陰鬱な感じで、暗黒の2曲だったよね。

 

藤原 無理矢理に捻り出した感じ。

 

西垣 あの方向で、アルバムまで作ってたら精神的にやられちゃってたと思う。

 

藤原 その後、「耳鳴り」っていう曲が出来て、次のアルバムの色(方向性)が定まって、暗黒の2曲は使えないな、ボツだなと。

 

----今作の雰囲気は、2005年のファースト・アルバム「POSITIVE NOISE ON THE BASS LINE」に収録されている「tablet drug」に、やや近いような気がするのですが?

 

藤原 そうだね。

 

西垣 あの曲は、自分の周りのDJやってる友達に好評で、実際にクラブでかけてくれた人もいて。下手したらファースト・アルバムで一番好評な曲だったかも知れないんだけど。当時は藤原君と二人で「こういう曲は、もう作らない。絶対に、この方向性には進まない」とか話してたよね。いま考えると、何であんなに頑なだったんだろう?

 

藤原 その頃は活動がライブ主体だったから、必然的に音もバンド・サウンドだった。今回のアルバムは、ライブ度外視で「作品を作る」という気持ちで取り組んだから、クラブでもかけられるような、4つ打ちで、ネタにしやすい感じにしてみたかった。

 

----アルバムを通しての、歌詞のテーマみたいなものはありますか?

 

西垣 まずは根底に「3.11」があります。僕は直接的な被害を受けた訳じゃないけど。日々を大切に生きなければと、改めて思いました。

 

藤原 色々な事を痛感したよね。

 

西垣 全体的なテーマは「現状打破」かな。世の中は、目標に近づこうとして、現状から抜け出そうと、もがいている人ばっかりだと思うんです。でも今日明日じゃ、すぐに状況は変えられないし。思い出したくない過去の記憶に邪魔されて、最初の一歩を踏み出せなかったり。そういった人々を、少しでも後押し出来れば、と思います。

 

----「耳鳴り」は、2003年の活動開始当初に作って、未発表になっていた曲なんですよね。何故この曲をリメイクしようと思ったのですか?

 

藤原 シンセが使われていて、当時作った曲の中でも、今回のアルバムの作風に上手く、はまる感じだと思って。

 

西垣 歌詞は、当時の雰囲気を残しつつ、大幅に書き直しました。

 

藤原 この曲と「provoke」には、有里湖さんという女性がボーカルで参加してくれて、いい世界観を作ってくれた。

 

西垣 ファーストのときもお願いした人で、7年振りぐらいに会ったけど、相変わらず芯があって良い声だと思いました。

 

----「ストレリチア」にも女性ボーカルが参加していますね?

 

西垣 これは、今までのタングステンには無い曲調で、初めてトラックを聴いたときは、歌詞書くの無理なんじゃないかと思った。

 

藤原 ビックリさせてやろうと思って。これなら、無理矢理にでも前向きな歌詞になるだろうと。歌パートで参加してくれたcanakoさんは声楽科出身と聞いていたので、イメージに合わないんじゃないかと思ってレコーディング前は不安だったんだけど、最終的には、歌詞も含めて上手く、はまって、成功だったと思う。

 

西垣 歌声が神々しいよね。

 

藤原 いい仕事してくれました。

 

西垣 この曲の歌詞には、今作のテーマである「現状打破」がストレートに現れていると思います。たくさんの人に聴いて貰いたい曲です。

 

----この他に、特に思い入れのある曲は?

 

藤原 100匹目の猿」かな。テクノというか、こういう無機質なハウスっぽい曲を、どうしても1曲入れたかったから。

 

西垣 「漣」は、初めて作ったレクイエム(鎮魂歌)ですね。

 

藤原 この曲は、セカンド「manicured picture」や、サード「obscure writer」に入っててもおかしくないね。

 

西垣 occupied tokyo」のトラックは、正に影のあるポップ。そういえば、「edible flower」は、当初7分を超える大作だったね?

 

藤原 プログレっぽい感じの曲。前半と後半の2曲で1曲みたいな。

 

西垣 後は…「provoke」の「音楽が人々を扇動する」っていう言葉は、タングステンを始めた頃からの、僕自身のテーマでもあります。

 

----音の変化は、アートワークにも影響してますか?

 

西垣 ジャケをどうしようか考えていたときに、藤原君から、白を基調にしたいっていう要望があって。

 

藤原 これまでの3作のアートワークが、黒を基調とした、メタリックな冷たいやつだったから。今回は白を基調として、暖色を取り入れ、温かみのある感じにしたかったんだよね。

 

西垣 いままでのタングステンのイメージが「黒」だとしたら、今回は「白」。音もジャケも「白タングステン」だね。

 

----アルバム制作期間(2012/01-10)の10ヵ月は、どんな時間でしたか?

 

西垣 仕事をしてても、家にいても、常にアルバムの事を考えていて、上の空というか、フワフワした感じでしたね。

 

藤原 俺も同じ。ずっと曲作りのこと考えてた。

 

西垣 作ってる間は、ずっと出す(アウトプット)ばっかりだったから、週末には必ず1本映画を観るようにして、インプットもするようにしてました。

 

藤原 バランスを取るって事だね。

 

タングステン・ヒューズは間もなく結成10年という事ですが、これまでを振り返って、いかがですか?

 

藤原 10年って感じしないな。言われて初めて「そうなんだ」って気付く感じ。最初の5年間ぐらいは、がっついて活動してて。その後は、仕事をしつつ落ち着いてやってる。もう生活の一部というか。ミュージック・ライフを楽しむ、ひとつの手段みたいな感じ。

 

西垣 この10年で、世の中も色々変わって、自分の生活も随分変わりました。機材も変わって、レコーディング形式も変わって。でもタングステンとして表現したい事の根底の部分、楽曲を通して人と関わりたい、人を刺激したい、という気持ちは何も変わってない気がする。使ってるスタジオもずっと同じだし。

 

藤原 色々な面で、常に変化を望むね。だいたい2年半に1枚のペースでアルバムを作ってるんだけど、次作でも新しい変化があるだろうし。今回のアルバムがターニング・ポイントになればいいね。

 

----やはり、このアルバムは、特別な1枚なんですね?

 

西垣 これまでに3枚のアルバムを作っていて、僕は初期衝動が詰まったファーストが好きで。これまで、どうしてもファーストを越えられなかったんだけど。4枚目となる「wolfram musik」は越えられたというか、2度目のファースト・アルバムみたいな感じ。

 

藤原 前作までは、ライブしながら曲を作って、溜まったらアルバムにする感じだったけど、今回は意識的にアルバムを作ろうと思って作った。初めにコンセプト(色)を決めて、それに沿って作り上げた感じ。リセットというか、ある意味でファースト・アルバムだね。一言で言うなら、[タングステン・ヒューズ流 シンセ・ポップ] かな。